
急傾斜地の恵み
三好市東祖谷元井地域では、古くより雑穀が栽培されています。特に東祖谷在来種のヤツマタ(シコクビエ)は、アフリカ原産のイネ科の植物で日本でも古くから全国の山間部で栽培されていましたが、次第に生産地が減少し、幻の雑穀と呼ばれています。近年では、過酷な気候条件に耐える小さな雑穀で栄養価が高いことから、スーパーフードやスローフードとして世界的にも注目されるようになりました。収穫したヤツマタは、脱穀して粒や粉で販売されているほか、特徴や風味を活かしたお菓子などの商品化が進められています。


ヤツマタの保存と継承
希少なヤツマタですが、農業従事者の高齢化や担い手減少により、生産農家がわずか1軒となり今後の栽培や種継ぎが難しくなりました。そのような中、地元有志が種を絶やさないようにと2016年に祖谷雑穀生産組合を立ちあげました。組合では、ヤツマタを後世に継承するため、元井集落にある傾斜畑を「やつまた継承の里」と名付け、地元小学生と地域住民によるヤツマタ栽培体験やコエグロ作り体験が行われています。児童たちにとって、傾斜地で行われる伝統農耕を実際に体験できる貴重な機会となっています。


傾斜地独自の農具文化
元井地域では、傾斜地に適した独自の農具文化が受け継がれています。傾斜畑の土づくりには、等高線に沿って畝と畝の間に溝を掘る「ひとり挽き」や風雨などで傾斜畑の土壌が下がったものを元に戻すツチアゲに必要な「サラエ」などが使用されています。ヤツマタの栽培では伝統農具を用いながら種蒔きから収穫まですべて手作業で行われています。


コエグロのある風景
秋には刈り取ったカヤを束ねて円錐状に立てかけ、畑の肥料用に乾燥させる「コエグロ」の風景が楽しめます。ヤツマタの栽培・収穫風景は、多様な人々の交流と自然が調和した景観を醸し出しています。

